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双極性障害の薬物療法

01 双極性障害の薬物療法

<気分安定薬>

気分安定薬は様々な定義がありますが、『長期的に持続する気分の安定性を達成して、将来の再発を予防する薬剤』がわかりやすいかと思います。
双極性障害が躁とうつの両相があるため、どちらかに偏った作用の薬剤では症状は改善しません。
その為、両相に効果がある、気分安定薬が選択されます。
(実際は各気分安定薬も、抗躁作用が強いものと抗うつ作用が強いものの傾向はわかれており、それを組み合わせて治療して事が多くみられます。その為、双極性障害の治療は多剤併用になりやすいです。)

以下の気分安定薬にて治療をしていきます。

炭酸リチウム、バルプロ酸名ナトリウム、クエチアピン、ラモトリギン、オランザピンアリピプラゾール、カルバマゼピン、ルラシドン
◎赤字は抗精神病薬としても位置づけられている

1)炭酸リチウム(商品名:リーマス)

筆者が医師になった時(今から30年以上前)にはあった薬剤であり、双極性障害の基本となる薬剤です作用機序は諸説あるが、未だにはっきりしていません。いい薬であるが、後述するように副作用が多く、筆者も若い頃はそれで痛い目にあって使い方を学んでいった薬剤です。

副作用が多い事から、血中濃度を数カ月に1回(少なくとも年間2~3回)は測定する事が厚生労働省からも注意されています。血中濃度の測定時間は、朝の薬剤を服用前がベスト。
至適血中濃度(効果もあって副作用がでない指標)は、0.4~1.0mEq/Lです。
1.5mEq/Lを越してくると、中毒症状をきたします。

躁とうつの両相に効果があると言われていますが、実臨床では躁状態と双極性障害維持期に有効な印象です。
躁状態を抗精神病薬で鎮静させる感じではなく、自然に気分高揚や誇大性を抑えていきます。
半減期(薬を服用して濃度が半分になる時間)が18時間と長くはないので1日2~3回の服用が必要です。

有効度が高いのは以下の場合と言われてます。

1)躁病相がうつ病相より優位な場合
2)爽快気分が中心の中等度以下の躁状態
(不機嫌や精神病症状を伴っていない)
3)家族歴がある事
4)寛解期(病状が安定した時期)がある事


炭酸リチウムの副作用

副作用は他の気分安定薬に比較して、多くみられるので投与開始時に説明が必要です

・投与初期から出やすい副作用は、口喝・多飲・多尿・微細な振戦 胃腸障害 下痢等であるが、次第に消失していく事が多いです
・維持期に入り投与が長期になってから出てくる副作用は、腎障害 甲状腺機能低下症 体重増加 脳波の徐波化やてんかん異常 皮膚症状等を生じる事があります。
心血管系の催奇形性があり、妊娠中の使用は禁忌。

2) バルプロ酸ナトリウム(商品名:バレリン デパケン)

抗てんかん薬としても使用されている薬剤です。躁状態に有効といわれていますが、焦燥感を呈しているうつ状態にも有効な印象です。混合状態や不機嫌な躁状態にも有効です。
脳波異常のある症例や高次脳機能障害の様な脳器質病変に伴う感情不安定にも有効です。

半減期(薬を服用して濃度が半分になる時間)が9.54時間と短く、1日2~3回の服用が必要です。副作用は、肝機能障害に注意する必要があります。
その他は、体重増加・消化器症状・眠気等です。
催奇形性がある為に、妊娠中の投与は原則禁忌です。

3)ラモトリギン(商品名:ラミクタール)

抗てんかん薬としても使用されている薬剤です。『双極性障害における気分エピソードの再発・再燃抑制』に適応をもつ唯一の薬剤です。
うつ病相への効果が報告されており、臨床的にもその印象です。急性期うつ状態への効果の報告もあるようですが、増量スピードが遅い為に急性期治療ではなく、軽うつ状態の補助や維持期(状態安定時)に服用する事が多いです。

薬物相互作用(複数の薬の飲み合わせによって効果が増強したり、薬の持つ効果が打ち消されてしまうことを指す。)が多く、特にバルプロ酸ナトリウムとの併用はラモトリギンの血中濃度を上げてしまう為に、ラモトリギンを25mg隔日投与から開始する事とラモトリギンの使用量も200mgまでに制限されています。

副作用は少ないです。特に眠気やめまい等の鎮静系の副作用は(用量にもよりますが)あまりみられません。
但し、湿疹など皮膚症状をきたす事があり、まれにではありますが重篤な皮膚症状(スティーブンジョンソン症候群等)生じる事があります。

副作用予防の為には、増量スピードをゆっくりしていく事で予防できる事があります。投与初期8週目までは、ガイドラインよりもゆっくりした増量(例えば25mg隔日投与2週間を12.5mg隔日投与に減量して投与。その後も12,5mgずつ増量)を行うで副作用は少なくなる臨床的実感があります。

上記のように増量スピードが遅くする必要があり、急性期の状態悪化時には効果はうすいですが、ゆっくり増量して200mg程度まで増量するとゆるやかに安定した効果を発揮する薬剤です。

4)クエチアピン(商品名:セロクエル)

抗精神病薬としても使用されている薬剤ですが、徐放剤(ゆっくり薬剤が放出されて効いていく)のビプレッソが『双極性障害におけるうつ状態の改善』に適応が認められています。
躁病相に効果がありますが、うつ病相への効果も認められており、悲哀感や興味喪失などの症状に効果があるのが特徴です。急性期・維持期ともに有効。

副作用は、眠気・めまい・便秘・食欲増進・体重増加等があり、血糖値を上げる事がみられる為に糖尿病患者さんへの使用は禁忌となっています。
パーキンソン症状(振戦・流涎・筋肉の動きずらさ等)は少ない。

5)オランザピン(商品名:ジプレキサ)

抗精神病薬としても使用されている薬剤です。『双極性障害の躁症状とうつ症状の改善』に適応が認められています。躁病相への効果・うつ病相への効果・再発予防効果があり、急性期・維持期ともに有効。

副作用は、眠気・めまい・便秘・食欲増進・体重増加等があり、血糖値を上げる事がみられる為に糖尿病患者さ んへの使用は禁忌となっています。

6)アリピプラゾール(商品名:エビリファイ)

抗精神病薬としても使用されている薬剤です。
『双極性障害の躁状態の改善』と『うつ病・うつ状態(の付加療法)』に適応が認められています。 ドーパミンの調整作用をもつ、ユニークな薬理作用をもちます。

躁病相・うつ病相の双方に効果のある薬剤でありますが、下記のような使用が効果がある印象です。

躁病相➡エビリファイ高用量(12mg)以上

うつ病相➡エビリファイ少量(6mg以下 増量しても12mgまで)


双極性障害にも、月1回施行の持続性注射剤の使用も適応となっています。

鎮静系(眠気・めまい等)と代謝系(体重増加・血糖値上昇等)の副作用は少ないです。
最も多くみられるのは、パーキンソン症状(振戦・流涎・筋肉の動きずらさ等)であり、その一種であるアカシジア(じっとしていられず落着きなく動くまわってしまう)を呈する事もあります。
不眠を生じる事があり、このような時は朝食後服用に変える事もあります。

7)カルバマゼピン(商品名:テグレトール)

抗てんかん薬としても使用されている薬剤です。
てんかん患者の情動安定作用があった事から、双極性障害患者への有効性が検討され認められました。躁病相に対して有効です。

有効度が高いのは以下のような症例と言われてます。

1)躁病相がうつ病相に比して多い(2倍以上)
2)これらの病相の間に寛解期(症状が安定している時期)があり、躁転、うつ転がない
3)30歳以前の発症
4)非定型的な特徴(精神病症状や錯乱を示す)

副作用は多くみられ、代表的なものは皮膚症状(発疹)と血液障害(白血球減少症)であり、まれに重篤化する場合もあります。
眠気・ふらつきなどの鎮静系の副作用や低ナトリウム血症を呈する事もあります。

8)ルラシドン(商品名:ラツーダ)

抗精神病薬としても使用されている薬剤です。
『双極性障害におけるうつ状態の改善』に適応が認められています。
セロトニン5-HT7受容体阻害作用が特徴的であり、認知機能の改善に有効であり、セロトニン5-HT1A部分刺激作用は気分障害の改善が示唆されています。
鎮静作用が少なく、生活機能の維持しながら治療を進めたい患者さんに適した選択肢も1つになりうると考えれています。

アリピプラゾールと同様に鎮静系(眠気・めまい等)と代謝系(体重増加・血糖値上昇等)の副作用は少ないです。
最も多くみられるのは、パーキンソン症状(振戦・流涎・筋肉の動きずらさ等)であり、その一種であるアカシジア(じっとしていられず落着きなく動くまわってしまう)を呈する事もあります。

<抗精神病薬>

主に次の様な目的に使用されます
1)焦燥感が激しいうつ状態(いらいらしてじっと出来ない)
2)精神運動興奮や攻撃性が高い躁状態

鎮静効果の高い抗精神病薬が選択されます。
非定型抗精神病薬が使用されますが、症状が重篤である場合は定型抗精神病薬が使用される場合もあります。

臨床的によく使用されるには、下記の薬剤です。
非定型抗精神病薬:オランザピンクエチアピン・リスペリドン
定型抗精神病薬:ハロペリドール・クロルプロマジン・レボメプロマジン・ゾテピン
※オランザピン・クエチアピンは気分安定薬目的でも使用

<抗うつ剤>

双極性障害のうつ状態への抗うつ剤の使用が、躁状態惹起の可能性があり、原則として避けるべきとされています。
特に第1世代抗うつ剤である三環系抗うつ剤は、躁転リスクを高め急速交代化を引き起こす可能性が高いとされています。

しかし、うつ状態が重篤な場合(希死念慮がある等)は使用する事があります。
使用する抗うつ剤は、躁転リスクを考慮するとマイルドに作用するSSRIを使用する事が多いですが、症状によっては強力に作用するSNRIの使用もされる事があります。