認知症に使うお薬について
目次 | 1.認知機能改善薬について 1)コリンエステラーゼ阻害薬について2)NMDA受容体拮抗薬について 2.漢方薬 3.BPSDからの使い分け 4.当院の認知症患者への取り組み |
01 認知機能改善薬について
現在、認知症(主にアルツハイマー型認知症)に使われるお薬は主に4種類あります。
1)コリンエステラーゼ阻害薬 | ドネペジル商品名:アリセプト ガランタミン商品名:レミニール リバスチグミン商品名:リバスタッチ、イクセロン |
2)NMDA受容体*拮抗薬 | メマンチン商品名:メマリー |
認知症の発症メカニズムにはいくつかの仮説が立てられています。
現在発売されている認知機能改善薬のうち、
コリンエステラーゼ阻害薬は「コリン仮説」、NMDA受容体拮抗薬は「グルタミン酸仮説」に基づき開発されました。
分類 | 成分名 (商品名) | 詳細 |
コリンエステラーゼ阻害薬 | ドネペジル (アリセプト) | 剤形:錠剤、粉、ゼリー、ドライシロップ 適応重症度:軽度~高度 主な副作用:下痢、吐き気、嘔吐 後発品の有無:〇 備考:アリセプトのみレビー小体型認知症の適応あり |
コリンエステラーゼ阻害薬 | ガランタミ(レミニール) | 剤形:錠剤、内用液 適応重症度:軽度~中等度 主な副作用:下痢、吐き気、嘔吐 後発品の有無:〇 |
コリンエステラーゼ阻害薬 | リバスチグミン (リバスタッチ、イクセロン) | 剤形:貼り薬 適応重症度:軽度~中等度 主な副作用:かゆみ、かぶれ 後発品の有無:× |
NMDA受容体拮抗薬 | メンマチン(メマリー) | 剤形:錠剤、ドライシロップ 適応重症度:中等度~高度 主な副作用:めまい、便秘、頭痛 後発品の有無:〇 備考:コリンエステラーゼ阻害薬と併用可能 |
※この表の中での錠剤は水なしで服用できる口腔内崩壊(OD又はD)錠を含む他のコリンエステラーゼ阻害作用を有する同効薬と併用はしないこと
認知機能改善薬は認知症そのものを治すものではなく、進行を遅らせるために使用されます。
3つのアセチルコリンエステラーゼ阻害薬ドネペジル、レミニール、リバスタッチを比べたときの認知機能改善効果(中核症状改善効果)に大きな差はないとされていますので、認知症の行動・心理 症状(BPSD*)に合わせて薬剤を選択することが多くなっています。
また、剤形(錠剤、液剤、貼付剤など)や用法などが異なるため、重症度や症状、肝臓や腎臓の機能、服薬管理の状況などに応じて、薬剤が選択できるようになっています。
*BPSD: の略
BPSDの症状:暴言や暴力、興奮、抑うつ、不眠、昼夜逆転、幻覚、妄想、せん妄、徘徊、もの取られ妄想、弄便、失禁など
認知機能改善薬の副作用は投与初期に現れることが多く、ある程度使い続けると症状がなくなることが多いとされています。
症状の継続期間は人によって異なるため、明確な期間は不明となっています。
また、認知機能改善薬は副作用が起こりにくいように低用量から始められますが、用量を増量した際に副作用が現れることがありますので注意が必要です。
1)コリンエステラーゼ阻害薬について

<メカニズム>
「コリン仮説」は脳内のアセチルコリンを中心とした仮説です。
アセチルコリンは神経伝達物質で、脳内では認知機能を保つ働きを持っています。
ドネペジルなどのコリンエステラーゼ阻害薬は記憶・学習に関わるアセチルコリンの量を減らさないようにし、認知機能を改善させることが期待されています。
<副作用>
コリンエステラーゼ阻害薬であるドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンは、軟便、下痢、吐き気、嘔吐、食欲不振などの胃腸障害が発現することが多いとされています。 リバスチグミンは貼り薬のため皮膚が赤くなる、かゆくなる等の皮膚症状が現れることがあります。
コリンエステラーゼ阻害薬による軟便、下痢、吐き気、嘔吐、食欲不振 などの胃腸障害が現れた際は
1.現在服用中のコリンエステラーゼ阻害薬の用量を減量または中止
2.他のコリンエステラーゼ阻害薬に変更
3.副作用症状に合わせて整腸薬や制吐薬 等の併用
などで対処することができます。
リバスチグミンはパッチ剤と呼ばれる貼り薬のため、貼ったところにかぶれやかゆみ等の皮膚症状が現れることがあります。
皮膚症状には以下の2つがあります。
刺激性接触皮膚炎(ほとんどがこのタイプ)
赤みやかゆみが貼ったパッチと大きさ、形が同じで、主に乾燥などによる皮膚バリアの低下が原因となっています。
なので、前回貼った所から位置を少しずらしたり、保湿剤やステロイド外用薬を使用することで予防と対処が可能です。
アレルギー性接触皮膚炎
赤みやかゆみが貼ったパッチと大きさ、形が異なり、パッチの大きさを超えて炎症が広がり盛り上がるのが特徴です。アレルギー性接触皮膚炎と診断された場合はリバスタッチの使用を中止してください
2)NMDA受容体拮抗薬について

<メカニズム>
「グルタミン酸仮説」は興奮性の神経伝達物質であるグルタミン酸を中心とした仮説です。 グルタミン酸は、通常時では情報伝達効率を高めて記憶・学習の手助けをしています。しかし、認知症の方の脳では、グルタミン酸神経系の過剰な活性化が起こり、神経細胞を傷つけているという状態になっています。 NMDA受容体拮抗薬であるメマンチンは、グルタミン酸の過剰な活性化を抑えることで神経細胞を保護します。
<副作用>
NMDA拮抗薬であるメマンチンは、めまい、便秘、頭痛、腎障害が発現することが多いとされています。
02漢方薬
認知機能改善薬以外に使われるお薬として漢方薬があります。
主に、BPSDや体質の改善、睡眠障害の改善を目的として使用されます。
1)抑肝散
「抑肝散(よくかんさん)」という漢方薬は、神経の興奮状態を鎮めて怒りやすさやイライラを改善し、穏やかな生活を取り戻す手助けをしてくれます。こうした行動・心理症状の改善は、介護をする人にとっても大きな救いとなります。


<メカニズム>
セロトニン神経とグルタミン酸神経に対して作用します。
セロトニン神経に作用することで、イライラや焦り、幻覚などを抑制するといわれています。
グルタミン酸神経に作用することで、神経の興奮を抑えるとされます。
▶イライラや興奮して眠れない方に使用することで、精神症状が安定し眠れるようになるとされています。
<副作用>
血圧を上昇させるホルモン(アルドステロン)が増加していないにも関わらず、高血圧、下肢のむくみ、血中カリウムの低下などの症状があらわれる「偽アルドステロン症」が、主に甘草を含む漢方薬で起こることがあります。
初期症状として以下のものがあります。
「手足のだるさ」、「しびれ」、「つっぱり感」、「こわばり」がみられ、これらに加えて、「力が抜ける感じ」、「こむら返り」、「筋肉痛」が現れて、だんだんきつくなる 等
2)酸棗仁湯
不眠に使われる「酸棗仁湯(さんそうにんとう)」という漢方薬があります。
睡眠薬と違って、直接的に睡眠を誘発するようなはたらきは持っていませんが、不眠が起こる原因を解消することで、より自然なかたちで睡眠に導いてくれます。

<メカニズム>
ドパミン神経とGABA*神経に対して作用します。
攻撃性に関与するドパミン神経を抑える事により、攻撃性を鎮めます。さらに興奮を抑えるGABA神経が活性化するため、興奮や不安などを抑えます。
▶心身の疲れがあり、弱っているのになかなか眠れない方に有効とされています。
*GABA:Gamma-Amino Butyric Acid の略
<副作用>
酸棗仁湯にも甘草が含まれていますので、高血圧、下肢のむくみ、血中カリウムの低下などの症状があらわれる「偽アルドステロン症」に注意して下さい。
03 BPSDからの使い分け
BPSDから薬を選択するとき
●主に無気力で活気がないタイプ又は幻視・日々の症状変化・パーキンソン症状がある方はドネペジル、
●お薬を飲み忘れてしまうようなアドヒアランスが悪い方や日常生活における機能の低下、抑うつ症状があるタイプはリバスチグミン、
●不安で落ち着きがないタイプはガランタミン、
●興奮しやすいにぎやかなタイプにはメマンチン・抑肝散を選択することでBPSD の改善が期待されます。 (参考文献7)
ただし、これらの薬剤は服用によって逆に興奮性が高まる例があるため注意が必要となる場合があります。
幻視・日々の症状変化・パーキンソン症状あり
活気がないタイプ
ドネペジル
無気力、無反応、意欲の減退がみられる方
お薬を飲み忘れて
しまうタイプ
リバスチグミン
日常生活における機能の低下、不具合、抑うつ症状がある方
不安で落ち着きの
ないタイプ
ガランタミン
不安、妄想、脱抑制(理性の低下)、攻撃性などの情緒不安定がある方
にぎやかなタイプ
メマンチン・抑肝散
攻撃性、興奮しやすい、夜間の異常行動などの興奮症状がある方
04 当院の認知症患者への取り組み
身体症状の睡眠障害があるときはベンゾジアゼピン系睡眠薬の使用が認知症疾患治療ガイドライン2017では勧められていますが、嚥下障害や記憶障害、転倒につながるリスクが問題となると考え、当院ではベンゾジアゼピン系睡眠薬の使用は出来るだけ控えています。
かわりに、嚥下障害や記憶障害、転倒につながるリスクはないとされているメラトニン受容体作動薬のラメルテオン (商品名:ロゼレム)やオレキシン受容体拮抗薬のスボレキサント(商品名:ベルソムラ)や、レンボレキサント(商品名:デエビゴ)を使用するようにしています。
参考文献
1)日本神経学会監修「認知症疾患治療ガイドライン2010」医学書院.
2)役に立つ薬の情報〜専門薬学 認知症と治療薬 <http://kusuri-jouhou.com/pharmacology/dementia.html>
7)一宮洋介著(2013)「認知症の臨床-最新治療戦略と症例-」メディカル・サイエンス・インターナショナル.
8)河野和彦監修(2016)「ぜんぶわかる認知症の事典」成美堂出版.
11)遠藤英俊監修(2016)「介護のための漢方薬がわかる本-お年寄り介護の「困った」対策をお手伝いします-」(第8版)株式会社協和メドインター