診療報酬と問題点
01 はじめに
ベンゾジアゼピン受容体作動薬(以下BZ系薬剤)は、催眠作用、抗不安作用、抗けいれん作用、筋弛緩作用など様々な作用があり、今日まで、睡眠薬、抗不安薬、抗てんかん薬、肩こりや腰痛等の痛み緩和の治療薬(筋弛緩薬)として幅広い領域で使用されてきました。
しかし、昨今におけるBZ系薬剤は、効果よりも様々な副作用の問題が指摘されており、使用量は大きく減少しています。
02 BZ系薬剤と診療報酬
近年の、BZ系薬剤における使用量の減少は、処方する医師のBZ系薬剤に対する適正使用の認識が高まったことや、診療報酬上の規制が年々厳しくなってきたことが要因と考えられます。
BZ系薬剤の歴史には、依存や転倒リスクへの指摘がある中、専門医以外が気軽に処方したり、多剤併用や漫然と長期間使用される時代がありました。この乱用時代が、後に、多くの問題を生むことになり、処方する医師へBZ系薬剤の危険性について警鐘を鳴らすこととなりました。
BZ系薬剤に関わる診療報酬上の規制も2012年から始まり、年々処方規制が強化されていますが、海外はさらに厳しく規制されており、まだまだ「甘い規制」であると言わざるをえません。
BZ系薬剤に関する診療報酬改定の流れ
2012年(H24)4月~ | 1回の処方において、3種類以上の抗不安薬、3種類以上の睡眠薬を処方した場合、処方料、処方箋料を減算 |
2014年(H26)4月~ | 3種類以上の抗不安薬、3種類以上の睡眠薬を処方した場合、処方料、処方箋を更に減算し、薬剤料も減算 |
2016年(H28)10月~ | エチゾラム(デパス)とゾピクロン(アモバン)において、処方期間の上限を、「上限日数なし」から「30日」に短縮制限 |
2017年(H29)3月~ | BZ系薬剤の添付文書改訂 *適正用量の使用であっても長期投与により薬物依存が生じるため、長期使用を避ける旨の注意文を明記 |
2018年(H30)4月~ | ①3種類以上の抗不安薬、3種類以上の睡眠薬を処方した場合、又は4種類以上の抗不安薬および睡眠薬を処方した場合についても処方料、処方箋料、薬剤料を更に減算 ②不眠の症状を有する患者に対してBZ系薬剤を、1年以上継続して処方した場合、2019年4月以降で処方料と処方箋料が減算 *だだし、適切な研修を修了した医師が処方した場合は減算対象外 |
03 BZ系薬剤の問題点
①依存性
②転倒や誤嚥
③認知機能の低下
④脱抑制
問題点その①「依存性」
依存は、長期間服用した場合に形成される傾向があります。
BZ系薬剤を大幅に減量したり、突然中断することで、「離脱症状」という、とても不快な症状が現れることがあります。わかりやすく言えば「禁断症状」です。
離脱症状には、下記のように身体症状と精神症状があります。
精神症状:反兆性不眠(中止により睡眠剤投与前の状態より不眠が悪化)不安、パニック、興奮、錯乱状態
精神的な依存形成により、BZ系薬剤の減量や中止に対し、患者様自身が強く抵抗を感じ、なかなかBZ系薬剤から離れられないというケースがみられ、減量の提案にも応じてもらえず、ダラダラとBZ系薬剤の使用が続いてしまいます。
依存を形成しやすい代表格として、エチゾラム(デパス)があります。
作用が強力であるうえに、半減期(薬剤が半分量になる時間)が6時間と短い事がその要因です。
問題点その②「転倒・誤嚥」
BZ系薬剤は、筋弛緩作用を有することで、肩こりや腰痛等の痛みの緩和に有効とされ、内科や整形外科領域において疼痛治療として使用されてきました。
しかし、筋弛緩作用による下肢脱力や嚥下に関連する筋肉を弛緩させることで「転倒」や「誤嚥」を引き起こすことも以前から指摘されています。特に、高齢者には注意が必要で、転倒による骨折や誤嚥による肺炎などは、生命に関わる大きな問題になります。
問題点③「認知機能の低下」
近年では、BZ系薬剤の長期間服用は「認知機能を低下させる」ことがわかってきました。
記憶力障害・注意力障害(物事に集中できない)・実行機能障害(物事を正しくできない)等を生じ、学習能力や就労能力を低下させ、高齢者においては認知症の発症につながってしまいます。
また前向性健忘と呼ばれる、BZ系薬剤服用後からの記憶がないという障害を呈する事が多くみられます。
朝起きると、「食べた憶えがないのに冷蔵庫からものを出して食べた形跡がある」「窓を閉めて寝たはずなのに窓が空いている」「電話で話したのに憶えていない」等の事で判明します。
この副作用は若年者から高齢者にかけて幅広くみられる為、出現時は早めに主治医と相談して睡眠剤の変更をしてもらう必要があります。
そして、BZ系薬剤は「せん妄」という一時的な意識障害を引き起こすことがあります。
せん妄の症状には、急に時間や場所がわからなくなる、話しかけても朦朧としていて反応がない、怒って大声を出す、錯乱状態になる、幻覚や妄想が現れる、夜眠れず一晩中起きているといった昼夜逆転を引き起こすケースなどもあります。
せん妄は一時的なもので、環境を整えたり、薬剤調整をすることで回復しますが、せん妄時は、意識レベルが低下している状態なので、転倒だけでなく様々な事故が起こりやすい状況であると考えます。このようなことから、特に高齢者のせん妄には注意が必要であり、BZ系薬剤の服用は避けるべきと言えます。
問題点④ 脱抑制
我々は状況に対する反応としての衝動や感情を抑える能力があります。
例えば、かっとする出来事があっても、その場は感情を抑えて、よく考えて行動をします。
BZ系薬剤の服用により、衝動や感情を抑える能力を不能にして、攻撃性・衝動性・自殺や自傷の増加を呈する場合があります。
重篤な場合は、他害行為等の反社会的行動を起こしてしまう事もありますので、早めに医師と相談すべきです。